「……」
氷のように冷たい雨がウキョウの頬を濡らす。
ウキョウの周辺には誰もいない。あるのは頭上から崩れ落ちてきた高速道路として機能していたコンクリートの固まり。
コンクリートの固まりはウキョウの胸部から下を強く押しつぶし、足を普通ではない方向へ押し曲げ、節々は血液で赤く染まっている。
ウキョウの体は悲鳴を上げて、まるで最初から痛覚が無かったかのように感覚を消していく。
「……あ」
息を吸おうと口を開けるも、何処からとも無く溢れ出る紅い液体と胸部から下のコンクリートの固まりが呼吸を邪魔する。
怖い、怖い、怖い――――……
コンクリートに押しつぶされる事なんて、もう、普通の人間なら何度も経験しない事を何十回も経験している、ウキョウの恐怖感は募るばかりだ。
せめて、彼女が隣で手を握ってくれたなら、この恐怖感は消えるのだろうか。ウキョウは何度も考えた事を頭に巡らす。
この場に居たら彼女は何と声をかけただろう。悲鳴か、同情か、それとも……。
ニールは言っていたのだ。ウキョウが生きている限り、彼女はハッピーエンドにたどり着けない。彼女が生きている限り、ウキョウはハッピーエンドには行けない。お互いにプラスマイナスの運命だと。
だから、ウキョウは彼女の幸せを優先した。ウキョウ自身はアンハッピーエンドでも構わないはず、だった。
だけどもし、もし、彼女と一緒にハッピーエンドを迎えられるのなら。
そんな、可能性は残されていないのだろうか。
「……」
血の気が聞いた薄い紫色の唇が声にならない言葉を紡ぐ。
もっとそばに居たかった。
ウキョウの目から一筋、涙が雨に溶けて消えた。
今度もウキョウは平行世界を巡る。